かまきり

〜孤高の戦士〜


子供の時分、かまきりという虫は、かなり特殊な地位にいたように思う。

皆がこぞって捕まえに行ったのは、かぶとむし、あるいはくわがたなどの甲虫類だ。これらを飼っている子供は多かったが、他の虫を飼っている子供を目にしたことは、あまりない。飼ってもすずむしくらいだろうが、これはたいてい誰かからもらったものだろう。自分で探してきたものではないと思っていい。少なくとも、すずむしを捕まえたという子供は、僕の友達にはいなかった。

では、どういう虫に人気があったのか。これもやはり、かぶとむしなどの、いわゆる甲虫のたぐいが圧倒的だろう。続いて、捕獲の容易な中でも強い昆虫であるかまきりがあげられることと思う。他は大型で美しいとんぼであるぎんやんま、特徴的なあごを持つかみきりむしなどを挙げても、あまり反論は出てこないことと思う。

さて。子供はなぜかぶとむしを飼うのだろう。

人気上位であることはもちろん重要だ。その他の理由は、持ちやすいこと、えさを与えるのが容易であること、また動きがさほど素早くないので逃げられにくいことなどがあげられよう。

同じく人気上位のかまきりについて考えてみる。瞬間の動きは素早いが、捕まえられないほどではない。羽を広げて飛ぶのはあまり上手でないから、逃げられにくい。そのうえ、子供の求める強さをも持ち合わせている。

それでも飼われない理由は、あまり持ちやすくないことと、それからえさの方にあるのだと思う。生きた昆虫を与えなくてはならず、親はあまりいい顔をしないだろう。子供自身だって、虫かごの底にある食べ残しを見たら、飼う気も失せるはずだ。

ある程度の人気がありながら、誰にも飼われない。どことなくアウトローな印象。おわかりいただけないものか。

かまきりは、そういう特殊な地位にいた。僕はそう思う。

細い体、長い足。植物系の緑色をしていて、獲物に気付かれにくい。狩猟のために特化した前足。恐ろしい印象を与えがちな、逆三角形の顔。大きな目。肉食昆虫らしい、大きな顎。

甲虫の持つ、戦車のような強さと違って、単身敵地へ乗り込んでいっても悠々と帰ってこれるような、身軽な強さ。そして、そういう称賛を決して喜ばないような雰囲気。超然たる戦士、といったところか。

他のどんな昆虫と比べても、かっこいい。

そんなかまきりだが、生まれたときの体長は1cmあまり。春、暖かくなって活動を始めた他の肉食動物達にとってみれば、まだまだ非力なかまきりの幼虫は格好の獲物である。他の昆虫だって同じだろうが、かまきりの場合、そのギャップが特に大きいように思う。

おととしの春だったか。台所で、棚の上を歩くかまきりの幼虫を見かけた。

いったいどこから入ったのかしら、といぶかしく思ったが、何となく愛着を感じて、両手ですくうようにして連れ出し、表の木に放した。「がんばって大きくなれよ」と声をかけたい気分だった。実際、声をかけたかもしれない。

別な話。

これは去年の夏だったと思うが、若いかまきりが塀にくっついて、もがいているのが見えた。何をしているのかとしばらく見ていたら、どうやら塀のすぐ横にある山椒の木に移ろうと、いっぱいに手を伸ばしているのだった。

数分ののち、1本の枝に前足がかかった。枝をたぐりよせるようにして飛び移った姿を見て、思わず「よし、よし」とつぶやいてしまった。

しかし、かまきり達はきっと、そんな僕に対して何の思いも抱いていないのだろう。昆虫だからではなく、かまきりだからこそ、そうなのではないかと思わせる雰囲気。

僕の中で、かまきりは今でもそういう特殊な地位にいるのだ。